naokies
 

 
         
     

 

 
   

なおき農園

 
 
愛弟だいすけが植えた「ゆめのコーン」
     

 

ナオジェクト X 〜「自給自足」脱サラを夢見る男の物語〜
     
表川なおきは、今年初めに新聞に掲載された金沢市が運営する「ふれあい農園」の参加者募集に応募した。そして春、多数の応募者の中から見事当選し、申し込みの為に急いで農協へ車を走らせた。4月下旬、酸性となった土をアルカリ性に戻す為に、苦土石灰をまき畑を耕した。
5月の連休、表川は友人の勧めにより、六つの畝を作り、トマトの苗、なすの苗、スイートコーン、つるなしいんげん、枝豆の種を植えた。畑で一番骨の折れる作業は草むしりであった。しかし六月、表川は仕事が忙しくなり、畑へ向かう機会が減り、気づくと畑は雑草で埋もれていた。「これではいけない!」表川は熱い唇を噛みしめながら呟いた。早速、草むしりを行なったが、草の根が奥深く成長し簡単には抜けない。事態は深刻であった。表川は空を見上げた。
あくる日、 友人に、雨の降る日に抜けば地盤がゆるく、抜け易いというと教わった。「起死回生・・・」表川は呟きながら、雨が降る日を待った。
四日後、念願の雨が降った。しかもどしゃ降りである。「もう後へは引けない・・・」表川は車から飛び降り、雨具などは着けず、無心に草をむしった。むしってむしってむしりまくった。程なく草という草が抜かれ、雑草で埋め尽くされていた農園は息を吹き返した。「よくやった」表川は雨に打たれたまま、救出されたトマトの苗の前に立ち尽くしていた。空を見上げると雨雲のすき間に日が差していた。
 

2003.7.5
表川は、今年小学3年生となった愛弟大介の夏休み前の週末に、農園へ向かった。
写真にあるように、野菜達は予想以上の発育で、表川を驚かせた。この日表川は、大介に「ゆめのコーン」の種を植えさせた。大介は初めての畑、初めての栽培に目を輝かせ、一生懸命草をむしっていた。「にいちゃん、これでいいか?」「ああ、だいちゃん、きれいになったね。よし、じゃあ次は種を植えよう!」「やったー!」

         
   
とまと
 
なす
 
まるで親子?
   

実は「つるなしいんげん」も植えました。
そしてそれらはすでに食べました。

えだまめ
 
スイートコーン
 
         
         
2003.7.19
表川は、愛する弟だいすけを連れて農園にやってきた。今日は枝豆の収穫の日だ。表川は前日より用意していたスーパーの袋に、根っこごと引き抜いた枝豆を詰め込んだ。だいすけの「ゆめのコーン」は、だいすけの夢をのせて天高く伸びようとしている。表川は、はしゃぐだいすけを横目に、収穫作業を続けた。なすや、とまとは、これまで随時収穫してきた。自分で作った野菜は、感動と共にその味わいを表川の記憶に刻み付けた。「おお神様・・・」表川は呟きながら賛美歌を歌っていた・・・。
     
 
「だいちゃん、頑張ったね!」
 
         
         
2003.7.26
その後も、雨の降る日を選び草むしりは続けられた。つるなしいんげんの収穫が終わり、再び耕され苦土石灰でアルカリ性に変った畝に、表川は、青臭い香りを放つネギの苗を植えた。苗は100本用意し、畑に60本、自宅のベランダで40本鉢植えした。そして、愛弟だいすけの、ゆめのコーンの種の残りをその畝に植えた。この時点で畝は7つに分かれた。ネギの畝、ゆめのコーンの畝、トマトの畝、なすの畝、スイートコーンの畝、枝豆の収穫後の畝2つである。そもそも枝豆に2つも畝はいらなかった。1つの畝に2列植えるべきであった。失敗はそれだけではなかった。トマトの栽培は、初心者には難しいと言われているが、ある夕方、表川は順調に育っているように見えるトマトを見つめながら、不意に息を止めた。トマトの茎は1本の太い茎を軸にして育てなければならない。その訳は、茎が何本も分かれて育つと、トマトの実に養分が行き届かないということだ。表川のトマトは伸び放題の雑草のようになっていた。トマトのわき芽を摘む事は知っていたが、そんな大切なことに気づかずにいた自分に呆然とした。「もう遅いな・・・」表川は青いトマトを見つめながら唇を噛みしめた。
次に表川は枝豆の収穫後の畝を耕し、苦土石灰を振り掛け入念にくわを入れていた。額から流れる汗もそのままに、表川は無心で耕した。「よし、いいだろう」表川はスイートコーンを1本だけ収穫し、車に乗り込んだ。窓ガラスの向こうでは手塩にかけた野菜達が風にそよいでいる。溝際では、作業中誤って根元から茎が折り駄目になって、放り出されていたトマトの苗が再び息を吹き返して、溝際に根を張っていた。一度棄てられたはず命を、今は溝際で燃やしている。表川は植物の生に対する力強さに感動していた。頬を伝う涙を拭い、表川は農園をあとにした。
         
   
ねぎ、右隣はゆめのコーン
枝豆収穫後、苦土石灰まく
 
トマト
   
棄てられたはずのトマトが育つ
溝際のトマトさん
 
おーい、ビール!
         
 

2003.7.29 事件の日
この日、表川はスイートコーンの収穫にやって来た。農園へ足を踏み入れ、元気に育つ野菜達を見て微笑を浮かべていた。しかし!現実は容赦無く、表川の心をずたずたにした。「盗まれた!」可愛い可愛いコーン君が1人、何者かの手でもぎ取られている。農園に一瞬、緊張の糸が張り巡らされた。「誰だ」表川は、苛立つ気持ちを抑え、周囲を見回した。もちろん誰もいない。きっと昨夜のうちに何者かが農園に侵入したようだ。すぐ隣の、先日植えたゆめのコーンの畝に、犯人の足跡が残されていた。とうもろこしは畝は低めに作ったら良いと友人に言われていたので、5センチ程の高さの畝を作っていた。種も植えたばかりで、芽はまだ出ていない。同じ区画の中で農園をしている仲間の中に、他人の畑を荒らす者は絶対にいない。畑を愛するものが、畑を横断するために、低い畝を踏んでまで横断するはずが無い。これは心無き者の仕業に違いない。表川は、コーンを盗まれた悔しさと、せっかく種をまいた畝を堂々と踏んでいく犯人に激怒しいてた。「ちっくしょう・・・」負けられない。絶対に負けられない。表川は応急措置として、唯一芽が出ているゆめのコーンの周りに柵を作った。しかし柵の作りは弱々しく十分ではない。早急に手を打つ必要がある。
次に表川は、スイートコーンの収穫作業に取り掛かった。コーンは何枚もの葉に包まれ、甘い実を隠し持っている。その甘い香りを嗅ぎつけて、青虫や蟻が寄ってくるのだ。表川は虫達を払いながら、いつものスーパーの袋へ、コーンを入れていった。今夜もコーンをゆでて、ゆで上がったコーンをがぶりっと頬張ることが出来るぞ。表川は想像しながらよだれを垂らした。
コーンの収穫が終わり、 ちょっと一服。だいすけのゆめのコーンは、みるみる成長し、だいすけの訪れを今か今かと待ち構えている。だいすけが来るのは今週の土曜日。その日は化学肥料を埋めなければならない。この、だいすけのコーンは、いっさいをだいすけに任せてある。種まきも草むしりも肥料を加えることも、全てを彼に任せてあるのだ。そうすることによって畑の楽しさを、収穫の喜びを教えたかったからだ。そしてもう一つ、夏休みの間、一日でも多く私の家に留めておきたかったからでもあった。だいすけは僕の愛する弟です。
さて、不敵な笑みを浮かべながら、表川は収穫後のスイートコーンの残骸の片付けに掛かった。思ったよりも根が深く、腰を据えて力の限りに引き抜かなければならなかった。こんなに根が深く張っていたなんて、驚きの連続であった。抜いた後はいつものように、雑草を抜き去り、畝を耕し、苦土石灰をまき、そしてまた耕した。「ふぅ・・・」今日はいろんなことがあったな。表川は仕事帰りの途中の楽しみに夢中になっていた。「まあ、いろいろあるさ・・・」

         
     
盗まれた傷跡
犯人の足跡
 
   
 ゆめのコーン第1号
 
 踏まないでくれ・・・。
 
だいすけのゆめのコーン 

茄子は上手く育てると秋まで食べれるぞ〜!

   
 
 
 僕の名前は、なす夫だよ。
 
トマトを発見!
   
えっさっ!ほいさっ!
 
腰が痛かった。 
 
苦土石灰をまいて耕す 
         
         
 

2003.8.2
目の中に入れても痛くない可愛い大介が来た。表川は、幼い大介に「男の道」を教えることが重要だと考えていた。畑もその一環であり、土に親しむことは、大介にとって、とても大切なことだと感じていた。この日表川は、大介に、草むしりをして雑草にゆめのコーンの養分を奪われないようにしなければならないと教えた。「あーあ」大介は渋々草をむしり始めた。表川は例の如く、大介の草むしりを見て見ぬふりをしながら、愛しい眼差しを大介に向けていた。表川は昨日会社の帰りに寄ったホームセンターで、ニンジンとブロッコリーの種を買っていた。そして友人に教えてもらった植え方で植えることにした。ニンジンの種は緑色で、細かい米殻のような姿をしていた。「こんなので大丈夫かなあ」表川は心配な面持ちで、友人の言うとおりに種を植えた。そしてブロッコリーも。友人の話では種は必ず2つか3つ植えなければならないそうで、のちに芽が出た時に太くて丈夫そうな芽を残して、あとの芽は切って棄ててしまわなければならないという事だった。更に友人の言うには、種を複数まく事で、種同士に競争心が生まれ、切磋琢磨して育つのだそうだ。この話を信じるか否かはお任せするが、以前、表川が大介のゆめのコーンの種の残りを植えた畝には、1つずつしか種を植えていない。コーン泥棒に踏まれたせいか、一粒だけで競争心が無いせいか、まだ2本しか芽が出ていないのであった。
「競争意識か・・・」表川は、野菜にも人間と同じ競争心があるんだなと感心していた。

「ああっ折れた!!」不意に大介が叫んだ!
「うわっ!」表川の視界に、大介の悲しい顔と、根元から折れたゆめのコーンが見えた。表川は大介に駆け寄った。「どうしよう・・・」心配そうな大介を勇気づけるために、表川は息を弾ませた。「大丈夫、大丈夫!」そう言いながら、折れた茎を真っ直ぐに戻し、土で周りを固めるようにと大介に指示した。「大丈夫や!野菜は強いから、くっついて、また育つわいっ!」「ええっ?!」表川は気が大きくなっていた。しかし内心、元通りになるかどうか不安だった。でもそんな不安な顔を大介に見せてはいけない。なおき兄ちゃんの言うとおりに、コーンは復活してくれなければならないのだ。「よし、だいすけ、肥料を入れるから穴を掘るんだ」「ほいほい」空は雲に覆われて、今にも泣き出しそうだと、表川は思った。
8月5日は大介の誕生日。「人生ゲーム」を買ってやらなければならない。「人生か・・・」表川は呟きながら、期待に胸を膨らませた大介を車に乗せて、ジャスコへ向かった・・・。

         
   
この表情がたまらん。
ぽきっ!
固めて固めて!
   
僕のコーンだ!
汗びっしょり
完。
   
人参の種
ブロッコリーの種
水をかけて、ひたすら待つ。
   
8月5日は大介の誕生日
         
 
 

2003.8.25
7月下旬に、大介の「ゆめのコーン」の種の残りを植えたはずの畝には、2つしか芽が出なかったため、「ゆめのコーン」はあきらめて、8月中旬、新たに「スーパーマロン」というトウモロコシの種を植えてみた。世間一般ではトウモロコシの種まきの時期は終わったと言われているため、どこを探してもトウモロコシの種は置いてなかった。しかし畑作り熱心な友人に聞くと、「わかった。今から買ってきてやる」と言って、あくる日420円の種と、その代金を請求してきた。「スーパーマロン?マロンとは栗という意味じゃないのか?」
その「スーパーマロン」は10日程で芽が出て、順調な発育振りを見せていた。


その日の仕事を終え畑に着くと、表川はスボンのポケットより宮重大根の種を取り出した。昨日、会社の近くのホームセンターで手に入れた。本当は青首大根を植えるつもりでいたが、種の値段が青首は205円、宮重は105円だったので、安い宮重大根の種を買ったのだ。久々に畑を訪れた為、雑草が元気良く生えていた。「やっぱりな・・・」表川は顔をしかめながら、渋々草むしりを始めた。振り返るとトマトの茎が成長して垂れ下がっていたので、慌てて支柱に結びつけ、草むしりを続けた。「世話はまめにしないといけないな・・・」表川はぶつぶつと自問自答をしていた。
今日は夕方から雨が降るらしい。雨が降ると畑に水をまかなくても良いから楽だ。表川は最近、楽な方へ楽な方へと考えるようになっていた。その結果、草は生え放題、ナスは大きくなりヘチマのようになっていた。そして残念なことにナスが病気になっていた。友人の話によると、茎などか白くなるのはダニのせいらしいのだが、表川は茎が白くなったのはナスが日焼けをした為だと思っていた。よく見ると全てのナスがダニにやられて、ナスが痛んでいた。中には腐っているものもある。原因がわからない。今度友人に聞いてみよう。もうナスは駄目かもしれないが、もう十分に元はとっているから、それ程落ち込むことはない。表川は自分を励ましながら大根の種を植えた。「大きくなれよ・・・お前は俺の希望の星だ」表川の期待を背負い、宮重大根くんたちは曇り空を見上げていた。♪風の中のすばる〜(挿入歌 中島みゆき「地上の星」より)

         
   
だいすけのコーン
ダニにやられた?
好調
   
にんじんの芽
ブロッコリーの芽
くさった
         
 
 

2003.8.30 夏の終わり・・・
曇り空の下、表川は大介を連れて畑へ向かった。夏休みも明日で終わる。寂しさを紛らわすように、表川は草をむしり始めた。ぼーぼーだった。「だいちゃん、コーンのまわりの草をむしらなきゃいけないよ」「うん!」大介の「ゆめのコーン」は大きく成長した。大介は満足気な顔で、自分の背より大きくなったコーンを見上げていた。あとは実が生るのを待つだけだ。トウモロコシを育てる上での一番大切なことは、1つの幹に実が2本なった場合は、丈夫そうな実だけを残して、あとはもぎ取らなければならないことだ。大介のコーンは、実が付き始めたばかりなので、もう少し様子を見る必要がある。ふと思ったのだか、トウモロコシの栽培が終われば、大介は私のもとへ遊びに来ないのではないか。最近の表川は、覇気がなく家に閉じこもりがちであったため、何事も悲観的に考えるようになっていた。「俺は何のために、誰のために生きているのか・・・」そんな途方もない疑問を自分に投げかけていた。

そんな腐っている表川を置き去りにするかのように「スーパーマロン」はのびのびと天に上っていく。以前植えたスイートコーンは一袋210円。スーパーマロンは一袋420円。この倍の値段のスーパーマロンには、どんな秘密が隠されているのだろうか。やっぱり食ってみないとわからない。腕組みをしたまま、この高級コーン「スーパーマロン」の近未来を想像していると、不意に心の中に微かな希望が生まれ始めてきた。「なおちゃん、これでいいか?」「おっおぅ」
今晩は雨が降る。だから水遣りはしなくても良い。頑張れ自分!今日は景気付けに焼肉にいこう。表川は大介を連れて近所の焼肉屋へ向かった。大介の好物は「ユッケ」である。彼は大物になるかもしれない・・・。

葉虫で腐ったナス達は、今日も葉虫薬をかけてもらえず、必死に耐えていた。

 
   
満足の表情
スーパーマロン
我が家のペット「ナツ」
   
宮重大根の芽
にんじんの芽(三寸)
ブロッコリーの芽
   
ユッケ800円
時間よ止まれ
夏の思い出
         
 
 

2003.9.22 収穫・・・そして、しばしの別れ
残暑も終わり、秋風を肌に感じ始めた頃だった。初秋の日照不足の為、だいすけの植えた「ゆめのコーン」の発育に影響が出た。小振りの実をつけたコーンを大介は喜び勇んでもぎっ取っている。大介の背丈を十分に超え、こんがりと焦げたコーンの毛と、大介の喜ぶ表情を見ながら、表川は太陽を背に黄昏ていた。
ナス達は、ついに葉虫薬をかけてもらえず、今シーズンを終えることになった。「元は取れたな」表川は、冷酷な眼差しで農園を見渡していた。ナスの苗が約200円前後(値段忘れた)。表川は、農業は必要最小限の費用で行なうのだという意思の元に行なってきたが、結果、元金を上回る成果を得た。この1年、スーパーでナスは買わないし、トマトも買わなかった。もちろんトウモロコシも。表川が育てた野菜達の中で寿命が一番長かったのは「ナス」である。春から畑を始める若者に言っておきたい。「ナスは畑の王道だ」しかし、葉虫に注意しなければならない。葉注剤を、しゅっしゅっしなければならない。畑は大変だ。先祖代々受け継がれてきた「日本の畑」。知れば知るほど奥が深い。
コーンの収穫が終わり、大介と共に車へ乗り込んだ表川は、ふとガラス窓越しに畑を見た。大介の残像を残したままの畑が、冬をまじかに控えてぶるぶる震えているようだった。大介が訪れていた畑には、どこか明るさが在り、ささやかな夢の匂いを感じた。しかし、今日を境に、我が「なおき農園」は日陰の農園となるだろう。表川はそんな感傷に囚われながら、子供から少年へ成長していく大介を愛しく、そして淋しげに見つめた。

 
   
イエーイッ
愛する大介
どれどれ
   
FOR EVER (永遠に)
少年の顔に・・・
たくましく・・・(左、母)
         
         

 

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