DEMAE
 
             
     
   
朗読劇
瀧の白糸
 
      【ものがたり】 泉 鏡花 作 「義血侠血」より

 水芸人滝の白糸こと水島友は、高岡から石動への乗り合い馬車に乗り、青年御者(馬方)村越欣弥を知る。時は過ぎ、水芸の興行の為、金沢の浅の川を訪れた白糸は、天神橋で、かの青年御者村越欣弥と再会する。欣弥は、馬車会社を解雇され、母親を養うために、金沢で職を探しているところであった。白糸は、欣弥が学問好きで、法律家を志している事を聞き、学資援助を申し出る。欣弥は感奮し、白糸の志を受け、二人は固い契りを交わす。


 3年後の夏、興行中の白糸は欣弥に送るはずの学資を、兼六園で強盗に奪われる。白糸は欣弥へ義理が立たぬと思いあぐね、園内の金持ち老夫婦の家へ忍びこみ、図らずもその夫婦を殺害してしまい、金百円を手に入れる。白糸は、老夫婦殺害容疑を受け、裁判が開かれた。しかし、その裁判に、検事代理となった村越欣也が出廷する。欣也は、白糸への恩義と法のはざまで苦しみ、白糸は欣也のために喜んで自白する。欣也は私情の眼を覆い、白糸に死刑を求刑し、自らも、その晩、寓居にて自殺する。
朗読 高輪眞知子
   
       
 

             
     
   

朗読劇
湯島の境内

 
     

【ものがたり】 泉 鏡花 作 「湯島の境内」より

 「切れるの別れるのって。そんな事は、芸者の時に云うふものよ。」というセリフで有名な「湯島の境内」は、原作の「婦系図」では書かれていない、お蔦主税の別れの場です。大正三年、劇団新派の「婦系図」の舞台稽古に立ち会った鏡花が、喜多村禄郎らの希望に応じ自ら書き下ろしました。

 
お蔦主税の悲恋は、鏡花が明治三十二年一月の硯友社の新年宴会で知り合った神楽坂の芸子桃太郎(すず夫人)と内密で同棲していたことが師尾崎紅葉に発覚し、師に強く叱責され、別れさせられた体験にもとづいています。

朗読 
高輪眞知子
表川なおき
   
       
 
 
             
     
   

朗読 化鳥

 
     

【ものがたり】 泉 鏡花 作 「化鳥」より

 橋番小屋の母子を描いた、口語体小説です。幼児である「私」が溺死しかけたとき救ってくれたのは「翼の生えた美しい姉さんだ」と母より教えられるが、本当は母様が救ってくれたのではないかと考える、鏡花自身の亡母憧憬の念を深く感じる作品です。

 何うもさうらしい、翼の生へたうつくしい人は何うも母様であるらしい。しかし何うしても何う見ても母様にうつくしい五色の翼が生へちゃあ居ないから、他にそんな人が居るのかも知れない、何うしても判然しないで疑はれる。
雨も晴れたり、ちやうど石原もすべるだらう。母様はあゝおっしゃるけれど、故とあの猿にぶつかつて、また川へ落ちて見やうかしら。さうすりやまた引上げて下さるだらう。見たいな! 翼の生へたうつくしい姉さん。だけれども、まあいい、母様が居らつしやるから、母様が居らつしやったから。
(泉鏡花作 化鳥より)

朗読 高輪眞知子
   
       
 

 

           
  出演者紹介      
           
           
     

高輪眞知子 (たかなわ まちこ)
1973年、東京ドラマスクールを卒業後、金沢でドラマ工房「ピコロ」を結成。90年より「鏡花劇場」に参加。演劇人生35年に達し地元演劇界の代表的女優。特に荒川哲生演出による、松田章一作品に数多く出演。99年、金沢市民芸術ホール5周年記念事業 芝居「幽月」では、作者パティ・クリスティナ・ウィリスの強い要望により、初の二役に挑み好評を得た。2000年
、泉鏡花記念館開館1周年記念公演、朗読劇「湯島の境内」に出演。同年より「出前公演」を企画し、地域演劇の普及に努める活動を始める。2001年、泉鏡花記念館開館2周年記念公演、朗読劇「山吹」、3周年記念公演、朗読「化鳥」、5周年記念公演、朗読劇「海神別荘」に出演する。平成十四年度「金沢市文化活動賞」を受賞する。

 
           
           
           
      表川なおき (おもてがわ なおき)
1994年、金沢市立工業高校卒業。能登中島演劇祭に参加後、数々の地域劇団を経て、鏡花劇場に参加する。また、金沢市民芸術村ドラマ工房アクションプランにて、講師の荒川哲生氏に師事し、98年、「海神別荘」(泉鏡花作、荒川哲生演出)、99年、「葵上」(三島由紀夫作、荒川哲生演出)に出演。同年、金沢市芸術ホール5周年記念公演「幽月」に出演。
2000年、泉鏡花記念館開館1周年記念公演、朗読劇「湯島の境内」に出演後、高輪眞知子と共に「出前公演」を始める。泉鏡花記念館開館2周年記念公演、朗読劇「山吹」、5周年記念公演、朗読劇「海神別荘」に出演する。
 
           
           
           
     

洞庭 静 (どうにわ しずか)
2003年より、鏡花劇場「出前公演」に参加し、朗読劇「葵上」(三島由紀夫原作)に出演。また平成16年泉鏡花記念館開館5周年記念公演、朗読劇「海神別荘」に出演。

 
           
           
   
STAFF
  制作 高橋栄一 竹原慶子 / 音響・照明 表川なおき
企画 高輪眞知子 / 構成 松田章一
 
   
協力
  燭台提供 林 定子 / 鍛冶師 河上知明  
   
後援
 
泉鏡花記念館
 
         
         
    出前公演という地域演劇     表川なおき    
         
   

 鏡花劇場は、高輪眞知子の提案により、2000年より出前公演を始めました。「出前」という言葉は、これまで食文化の場に多く使われてきましたが、近年は、「落語の出前」「朗読の出前」「人形劇の出前」「漫才の出前」「出前コンサート」など、舞台芸術文化の場で使われる事が多くなりました。創作者は「お客様が劇場へ足を運ぶ」ことから「創作者自らお客様のもとへ向かい、舞台作品を提供する」という公演形態を生みだしました。もちろん「出前」ですから、お客様より注文を受け、配達(公演)を行います。私たち鏡花劇場の出前は、劇場へ足を運び、観劇の機会の少ない方々へ、文学作品の朗読劇、一人芝居をご覧頂き、演劇の面白さ、劇場の魅力に触れて頂きたく、今日まで続けさせて頂いております。

  江戸時代、地域に住む町民にとって唯一の娯楽であったのが「歌舞伎」でした。金沢では浅野川、犀川の河原を中心に沢山の芝居小屋がありました。歌舞伎興行の日、町は人々で賑わい、芝居小屋は町民達の熱気で沸きかえり、河原は納涼の人出で賑わう。町民にとって芝居小屋は生活の一部、必要不可欠なものでした。しかし現代の日本の劇場文化は、メディアの普及に伴い大きく変化してしまいました。
 アメリカ合衆国では、リージョナル・シアター(非営利演劇)活動が盛んに行なわれ、地域共同社会と劇場の関係、国、企業、財団などによる経済的援助によって非営利芸術団体を支え、全国各地の主要都市に本拠を構えて、地域に住む生活者の劇場文化に大きく貢献しています。今日のアメリカ合衆国の各地域では、週末に家族や恋人と劇場へ行く習慣があり、肩を並べ共に観劇し、同じ感動、同じ時間を共有するという劇場文化があります。とても素敵な事だと思いませんか?

 私達の出前公演は、地域に点在する公民館、学校、図書館、飲食店、福祉施設、寺院などが「劇場」となり、今後も皆様と共に地域の劇場文化の創造を続けて行きたいと思っております。「地域演劇」とは、決して「都会と比べた地方の演劇」という意味の言葉ではありません。地域演劇は、地域に住む生活者である私達が、文化的な生活を送る為にあるものだと私は思います。また、私達の生活に欠かせない「文化」は、地域特有の風俗習慣と密接な関係を持ち、私達の心の中に脈々と息づいています。石川県は能楽や邦楽が盛んで、徳田秋声、室生犀星、泉鏡花らの文学と、ゆかりの深い地域でもあります。先人より受け継いだ石川の文化を次世代へ伝えていく事は私達大人の努めではないでしょうか。

 出前公演という地域演劇、これは鏡花劇場の挑戦でもあります。

   
         
         

 

 

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